請負契約を結ぶ際には、契約書を作成することが一般的です。
請負契約は業務の成果に対して責任が発生する契約で、基本的に法律上の規制などは存在しません。したがって、契約書の作成は法的に必須とはなりませんが、のちに「委託した内容と合わない」などといったトラブルが起こらないよう、契約締結の際には契約書を作成しておきましょう。
また、下請法の対象に該当する取引では契約書の作成が義務となりますので、下請法で定める条項をもれなく記載した契約書の作成が必要です。
製造工程の一部または全部を請負業者へ委託する製造請負契約の場合は「製造請負契約書」を作成します。
本記事では、製造請負契約書の書き方や契約書作成における注意点を詳しく解説していきます。
製造請負契約書は、発注者と受注者間の取り決めを明確に書き記したもので、適切かつ健全な請負契約を推し進める役割を担います。
業務の遂行を目的とする委任契約とは違い、請負は成果物に対して報酬が支払われる契約であるがゆえにリスクが高く、双方の間に齟齬が生じれば納品時に大きなトラブルが起こりやすくなります。そのため、報酬額や納期の基本事項のほか、詳細な製品の仕様や権利・責任の所在についても契約書に明記しておくことが重要です。
原則として、製造請負契約書に決められた形式はなく、契約ごとに必要な条項を記載していきます。
契約内容や実情に応じて、発注者と受注者がどういった規律が適切であるかを十分に検討し、適宜、条項の変更を行います。
製造請負契約書の作成に重要となる、基本的な項目には以下の5つがあります。
・業務内容(製品の仕様)
委託する製品の詳細な仕様を記載します。一般的に、契約書と別で仕様書や設計図などを作成し、具体的な仕様はこれらの書面に記載し、記名押印することが多くあります。
・原材料の支給や設備等の貸与
発注者から受注者に原材料の支給や設備などの貸与がある場合、有償・無償を問わず、それらの取扱いについて規定します。品名や数量、対価、引渡し期日、決済期日および決済方法、それらの所有権などまで、具体的な取り決めを契約書や別途仕様書などに記載します。
・納品
納品期日や納品方法、納品場所など、納入に関することを具体的に規定しておきます。
・検品
納品された製品は、仕様書などに基づいた検査を行うことが一般的です。製品の合否をめぐるトラブルが起こらないよう、検収完了に至るまでの詳細を取り決めておきます。
・報酬
請負料金(委託料)の金額や算定方法、支払期日、支払方法などを規定します。一般的な支払方法としては銀行振込が多く、手数料は発注者が負担します。支払方法が銀行振込の場合は、振込先口座や手数料についても記載します。
以下は、製造請負契約書のひな形の一例です。契約ごとに必要事項や内容は異なるため、基本的な構成のイメージとしてご参照ください。
[発注者]〇〇(以下「甲」という。)と[受注者]〇〇(以下「乙」という。)は、以下の通りに製造請負契約(以下「本契約」という。)を締結する。
第1条(目的)
1
甲は乙に対し、下記製品(以下「本製品」という。)の製造を委託し、乙はこれを受託する。
記
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
2
本契約は、甲乙間の基本的な取引条件と権利義務を定めることを目的とする。
第2条(製造の指示)
1
甲は乙に対し、本製品に関する別紙仕様書を提供し、乙はこれに基づいて製造を行う。
2
本製品の仕様は、仕様書の内容に合致しなければならない。
第3条(委託料)
1
甲又は乙は、設計仕様、金型製作仕様、品質、納期、納入方法、支払方法、材料費、労務費、諸経費、検査方法、市場の動向等の諸要素を考慮した合理的な算定方式に基づき、見積書等により協議の上、委託料を定めるものとする。
2
本契約成立後、委託料決定の基礎となった条件が変更される場合は、委託料について協議するものとする。
第4条(支給材料及び貸与品)
1
甲は、本製品の製造に必要な一切の原材料(以下「支給材料」という。)を乙に供給する。
2
甲は、本製品の製造に必要な製造機械器具、図面その他製造に必要な物品等(以下「貸与品」という。)を乙に貸与する。
3
支給材料及び貸与品の品名、数量、品質又は規格若しくは性能、引渡場所及び引渡時期は、仕様書等に定めるところによる。
4
乙は、支給材料及び貸与品について善良な管理者の注意義務をもって管理し、甲の承諾なく、本製品の製造以外の目的のために使用してはならず、第三者に譲渡又は担保提供などの処分をしてはならない。
第5条(模倣品製造の禁止)
乙は、本製品の模倣品及び類似の製品を製造してはならない。
第6条(納品)
1
本契約締結後、乙は〇〇〇〇年〇〇月〇〇日までに、甲が指定する方法において、甲及び甲の指定する者に本製品を引き渡す。
2
乙は、納品期日に本件製造物を納品できないおそれが生じたときは、直ちにその旨を甲に通知し、甲の指示に従う。
第7条(検品)
1
甲は、本製品を受領後7日以内に、本製品が仕様書と合致するか否かを基準に検査を行う。
2
乙が製造した本製品が検査に不合格となった場合、甲は書面により乙に通知し、乙は遅滞なく甲の指定する期限までに補修し、再度納品する。
3
本条各項の規定は、再納品された本製品についても準用する。
4
合格した本製品については、代金の減額請求及び契約解除をすることはできないものとする。
第8条(所有権)
1
原料等及び本製品(製造中の製品を含む。)の所有権は、甲に帰属する。
2
乙は、甲より受領した原料等及び本製品(製造中の製品を含む。)を善良なる管理者の注意義務をもって保管しなければならない。
3
乙は、甲より受領した原料等及び本製品(製造中の製品を含む。)が甲の所有であることを示す旨の表示をしなければならない。
第9条(請負代金及び支払方法)
甲は、本製品の代金を〇〇〇〇年〇〇月〇〇日までに、乙の指定する下記金融機関の口座へ振り込みにより支払うものとする。尚、振込手数料は甲の負担とする。
記
請負代金額 :¥
(うち取引に係る消費税及び地方消費税の額:¥ )
銀行名:〇〇銀行 〇〇支店
口座種類:〇〇預金
口座番号:〇〇〇〇〇〇〇
口座名義人:〇〇〇〇
第10条(品質保証)
1
乙は、甲に納入する本製品の引渡し後1年間は、本契約に基づく仕様に合致し、定められた品質と性能を具備することを保証する。
2
本製品に隠れた瑕疵があった場合、甲は乙に通知することにより、無償で補修又は代金減額の措置を求めることができる。
第11条(秘密保持)
甲及び乙は、相手方から事前に承諾を得た場合を除き、本契約による取引により知り得た相手方の営業上、技術上の秘密情報を第三者に漏洩又は開示し、本契約の履行以外の目的で使用又は第三者に使用させてはならないものとする。但し、次の各号に該当する情報については秘密情報には該当しない。
(1)
開示を受けたときに既に保有していた情報
(2)
開示を受けた後、秘密保持義務を負うことなく第三者から正当に入手した情報
(3)
開示を受けた後、相手方から開示を受けた情報に関係なく独自に取得、又は創出した情報
(4)
開示を受けたときに既に公知であった情報
(5)
開示を受けた後、自己の責めに帰し得ない事由により公知となった情報
第12条(再下請の禁止)
1
乙は、甲の承諾を得た場合を除き、本契約の全部又は一部を第三者に請け負わせることができない。
2
乙は、前項の規定により第三者に請け負わせる場合、本契約に規定する乙の義務を免れず、かつ第三者に対しても本契約上の義務を遵守させる義務を負う。
第13条(契約の解除)
甲及び乙は、相手方が次の各号に該当した場合、通知催告を要することなく直ちに本契約を解除でき、損害賠償の請求をすることもできるものとする。
(1)
本契約に違反し、違反状態が解消されないとき
(2)
第三者から差押、仮差押、仮処分等の強制執行もしくは競売申立てを受けたとき
(3)
公租公課の滞納処分を受けたとき
(4)
破産手続開始、民事再生手続開始又は会社更生手続開始、若しくはそれらの申立てがなされたとき
(5)
解散、合併若しくは営業の全部又は重要な一部の譲渡を決議したとき
(6)
監督官庁から営業取消、営業停止等の処分を受けたとき
第14条(合意管轄)
甲及び乙は、本契約に関し裁判上の紛争が生じた場合、〇〇地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とすることに合意する。
第15条(協議事項)
本契約に定めのない事項については、甲乙誠意を持って協議し、決定するものとする。
以上、本契約の証として本書二通を作成し、発注者及び受注者が記名押印の上、各自一通を保有する。
令和 年 月 日
発注者 住所
氏名 印
受注者 住所
氏名 印
製造請負契約書は、発注者と受注者双方の承諾があれば、ある程度、契約内容を柔軟に取り決めることができます。
ただし、労働関係法規や公益通報者保護法の趣旨などから逸脱した内容を規定しないよう、注意が必要です。
また、契約書作成の際には、秘密情報の利用形態や知的財産権・所有権といった各種権利の面にも、目を向ける必要があります。情報漏洩や権利の不正使用などの委託におけるリスクを抑えられるよう、トラブル発生時の責任の所在や契約解除についても考慮しておきましょう。
契約が確実に履行可能なものとするため、契約書作成時に双方で協議を重ねて、コンセンサスを形成することが大切です。
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円滑な取引を行うためには、契約締結時に発注者と受注者の認識を一致させておくことが重要です。製造請負契約書の作成時に契約内容が明確に反映されているかを協議し、リスクやトラブルを抑えた健全な製造請負契約を結びましょう。