2015/05/10
ベトナム情報誌VIET JOに紹介された平山の記事
VNエコノミー日越経済交流フォーラム(2): 平山ベトナム・寺崎 赫氏
http://www.viet-jo.com/news/nikkei/150506025327.html
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株式会社平山(東京都港区)は、製造業の会社に対して現場改善提案をする、というユニークな業態を持つコンサルティング会社だ。これまで日本では、数多くの会社を指導し、組立作業にかかる時間を約40%短縮させる、製造ラインの稼働率を約35%向上させるなど、目覚ましい実績を上げてきた。同社には約30人の専門家が所属し、現在アジア地域18社の現場改善指導に日々取り組んでいる。平山ベトナム社は、2011年に設立された同社初の海外法人だ。VNエコノミー(VnEconomy)は、平山ベトナム社の専門家の1人であるシニアコンサルタント・寺崎赫氏に、「ベトナムの製造業はどうすればさらに成長できるか」について話を聞いた。
――御社は、日本で製造コンサルティングとして長い歴史と実績をお持ちですが、その目で見て、ベトナムの製造業の改善すべき点は何でしょうか。
私が3年前にベトナムに初めて入り、何社かのベトナム資本の製造業を視察して感じた問題は、「現場改善に取り組むための基礎教育が不足している」という点でした。私が製造ラインに入って現場で働くスタッフに改善を提案しても、まず抵抗されてしまうのです。「そういうことは、マネージャーなど会社の管理職がすればいい。現場の私とは関係がない話」という姿勢でした。「現場改善=ノルマが厳しくなる」と考える人もいました。しかし日本で改善活動が効果を上げることができるのは、「現場改善は全員が参加して取り組むものだ」という意識を働く人全員が持っているからなのです。こういう意識を持ってもらうことに苦労しました。
――そういう意識は、ベトナムの企業にも根付いていくものなのでしょうか?ベトナムでも「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)」や「5S」、「QC活動」という言葉は、かなり知られるようになっています。しかし、それが実行されているかというと疑問です。
そうですね。ベトナムでも、「5Sって、何ですか?」と尋ねると、すらすら説明できる人は少なくありません。しかし「知識としては知っていても、実行力が伴っていない」というのがベトナムの製造業の課題でしょう。
――日本の製造業は、どのようにして末端の社員にまでそういう意識を浸透させることができたのでしょうか。そしてベトナム企業が同じことを実現するには、どうしたらいいのでしょう。
重要な点が3つあると思います。1つは、「改善活動とは何かを、現場のスタッフに見せる。そして体験させる」ということです。私が担当したある企業では、「1年後には、これだけの改善を実現します」と約束をして指導を開始したにも関わらず、最初の6か月間、成果が上がりませんでした。そこで会社側に頼んで、現場のスタッフを10人選んでもらいました。彼らには、私と常に同行してもらい、私がやっていることを見てもらい、一緒に改善活動を行ったのです。後半の6か月で彼らは非常に成長し、改善を実現する「実行力」を身につけてくれました。
――これまでベトナムの製造現場では、そうして目の前で実例を見せてくれる先生がいなかったのでしょうね。
2つ目は「改善するという意識を、会社全体に浸透させる」ことです。実例を挙げましょう。今日、指導に行っていた会社は、従業員数4~500人程度の企業。この従業員全員を、10人ずつチームにしました。約40~50のチームです。各チームには1人のリーダーを置きます。そうして6か月毎にリーダーを交代させるようにしました。現在、この取り組みを始めて1年半、3期目です。その間に3人がリーダーを経験したわけです。こうしてリーダー経験をした人間が社内にどんどん増えて行くことで、会社全体の意識が変わってきました。今後の成長が非常に楽しみです。
――つまり、まず組織の上層部を教育して、次にそれを社内全体に浸透させていくわけですね。
そうです。ただし「形式」を変えるだけでは社内には浸透しません。社員について来てもらうためには、会社側が「社員の努力を認めてあげる」という姿勢を持つこと。これが大切なことの3つ目です。例えばインセンティブ。私がインドの会社の指導をしたときに、「この部門の生産効率を20%向上させよう」という目標を立てました。それが実現したときに、従業員の基本給を上げたんですね。そうすると「あの部門は昇給したらしい」という情報が全社内に広がり、「昇給したいので、私の部門も指導して欲しい」という要望が相次ぎました。こういうものをベトナムでも、もっと取り入れていくべきだと思います。
――しかし、経営者の側としては、人件費の増加には慎重になってしまいます。
お金である必要はありません。社員が提案をしてきた場合は、誉めてあげる、というのも大切です。大切なのは「社員の頑張りに、会社は応えてくれる」という姿勢なのですから。日本はその風土が確立されているので、社員もついて来るのです。
――御社では、ベトナムの企業に日本人コンサルタントを派遣するだけでなく、ベトナムの企業の人たちに日本の現場を見てもらう「JAPAN STUDY TOUR」という視察ツアーも行っておられますね。
これは2007年から実施しているプログラムで、これまでの8年間で、全部で40か国から、合計約4000人の方を受け入れました。1回のツアーの参加者は20人前後。参加者の大部分は、経営者もしくは管理職の方々です。5~7日間日本に滞在し、弊社のトレーニングセンターでのセミナー、特色を持った日本企業の工場見学、ビジネスマッチング商談会を行うという内容になっています。例えば、トヨタ自動車の工場を実際に自分の目で見ることができるわけです。現在は、ほぼ毎月1回くらいの割合で催行しています。
――どのような国からの参加者が多いのでしょうか?
ほぼ毎月受け入れているのは中国からのツアーです。韓国やシンガポールからの参加者も多いです。アジアだけでなく先進国が多い欧米からの参加もあります。
――ベトナムからのツアーは、既に行われているのでしょうか?
3年前から始めて、これまで3回実施しています。2015年からは、回数を年2~3回に増やしたいと考えています。具体的には5月と9月、10月に催行を予定しています。
――ベトナムの製造業はいろんな意味で現在、岐路に立っていると言えます。2015年中にはASEANの経済統合があります。人件費の上昇により、「安い人件費」というメリットが薄れつつあります。年来指摘されている、裾野産業の未発達という課題もまだ解決されていません。こういう状況をベトナムの製造業は乗り越えて行けるのでしょうか。そのためには何が必要でしょうか。
私はこの3年半で、ベトナムの製造業を40社近く見てきました。中には日系企業もあれば、ベトナム資本の企業もあります。それらを通して、「ベトナムの製造業は、まだまだ伸びる要素を豊富に持っている」という強い印象を持ちました。改善を積み重ねて行けば、ベトナムが東南アジアで生産性がいちばん高い国になることも決して夢ではありません。そうすれば、「高い給与」と「高い競争力」を同時に実現する事も可能でしょう。そんなベトナムの製造業の発展に、我々も貢献していきたいと願っています。